仄かな雨の匂い鈍い朝は灰色にカーテンの向こうは湿りつつも美しい静寂が波紋のように広がるカラスは気だるく鳴いていた
ケイティー
日常の風景を″詩″として切り取り、綴る世界
夜が砕けて塵となりシフォンジョーゼットがふわりと舞い降りる冷たい風も砕けた塵も透明な包摂力で抱き締める
踏みしめた足跡を掻き消して反復する時間と空間に漂流した帰結が境界の向かうに世界を蹴り上げた数珠繋ぎの意識は今日を踏み絵に明日を礼賛する掻き消された襞が折り目正しく転回し今日と言う過去を踏みしめる
記憶が捨て去った想い出香りが連れてきた場所そこにあったふたりの欠片想い出が拾い集めた記憶触れた指先に残る温もり肩に伝わる安らぎ遠くの記憶がその場所に近影を残している流れた想い出がその場所で結晶化したこの公園が楽園だった記憶を 金木犀の香りが甘かった季節を 想い出が錆びても香りがこの公園が二人で座ったベンチが彩りを与えてくれる消えてしまった息遣いは公園の中に閉じ込めたんだ
ニットの綻びに刺す風が痛いぼうっと滲む秋月が雲間から覗き鈍く世相の埃に反射して分散する電車が線路の継ぎ目を踏む音閃光灯が照らす身過ぎの影法師 警報音が渡る向こう岸に追いたてる家路に見当たらない星を探して明日を願い時世を跨ぐ
乳白色の中を泳ぎ炉の埋み火に恋をした温み仄かな安らぎが冷やされた骨を慰める濁り水を払い死の香りを祓いすっかり枯れた内奥に琥珀の歓びが注がれ飲み干せば喉から胸へと紅潮が伝う萎れた落ち葉を踏んだ悲しみも湿った木々に触れた虚しさも炉の中の優しさに溶かして飲み干したい
あの日の想い出が濁りと共に苦味となって鼻を抜ける仮初めの宵薄灯りが肌を撫でるように甘く照らす灰色の道徳率は自然法則となって透過した重なりあう罪が根のない華を咲かせ散りゆく罰にこの身は脱け殻となる成熟の毒が清廉を凌駕して濁り苦味を覚えたあの日の想い出
影の行き交う雑踏の海を焦燥が波立つアスファルトの窪みに溜まる涙足早に過ぎ去る時を追いかけ幾多の足音が窪みを踏む跳ね返る涙に映る影は日溜まりの安らぎを脇に置いてひた歩くある季節の煌めきは泥にまみれ淀む海のなかで錆びついた今はただ岸辺の船着き場でかつて見た眩しさを揺れる珈琲の鈍い照り返しに探す
灯りは障子の向こう隠れるようにゆらりゆらり見つめた先の幽けき光 微笑む紅の艶は結び朧が卯の花零す頃 燈消えて息が触れ小夜に甘く色づく月下美人
胸の奥にある点が涅色に塗り潰されて 淵へと沈み行く線を引いても点は見えず行き場を失いまた沈む浮くことのない空から露が降り頬を伝う雫が描く軌道は皮肉にも美しい